もう忘れてしまいそうなペースで申し訳ないです。
取りあえず続きですよ~
彼の脳裏には当時の様子がまざまざと浮かんでいるのだろう、苦々しい表情と吐き捨てるような声音に、ゾロは何となく居住まいを正して父の話を待った。
腐った官吏というものは何処にでもいるものだ。穏やかに揺るぎなく、安定した治世を保っていた前国王の時代ですらもそういった輩は当然居たのだから、表面上は体裁を保っていても内情は千々に乱れている今は尚更だった。
国王不在の混乱時、主に上層部にまでは至らない、けれど一定の立場にある所謂中間管理職にその傾向は見られた。
主だった重臣等とて、平静時であれば度を過ぎない程度の旨味に甘んじることはあっただろうが、現状では逆にそんな余裕がない。国が崩れてしまえば困るのは自分達なのだから当然だ。
同様にコウシロウの様な下っ端やそれよりほんの少し地位が高いだけの上司たちもそんな余裕はない。それは今後のためではなく、純粋にそんなことに割く時間がないだけだ。
では中間に位置する者たちは何故か。
国か崩れたら困るのも余計な事に割く時間もないはずの彼らが、不正な行為に耽る理由は、一言でいえば責任感の希薄さであるとコウシロウは思っている。
国の今後を左右するような決断を迫られるわけでもない。いざとなったら頼ってしまえる重臣が居り、面倒なことは押しつけることが出来る部下が居る。
本来であれば上にも下にも挟まれて、見えぬ苦労を強いられるであろう立場ではあるが、責任を放り出してしまえば最も気楽な立ち位置でもあるのだ。
自身の管轄内の税の割り増しや帳簿の改竄。そしてその差額は懐に収められる。気に入った女性を、権力を笠に無理矢理手に入れる輩もいた。
そしてそういった輩こそ、事が露見しないように巧妙で狡猾だった。
彼らの所業に気付いても、コウシロウには摘発する権利も糾弾する術も持っていなかった。
無力な自分に歯噛みをしながら、下っ端のミスのふりをして改竄された書類を改竄し直したり、税率の計算を間違えて不正な収集が上司の目に付くように細工したりすることで精いっぱいだった。
そのささやかな抵抗が元で、ミスが多い無能者というレッテルを張られようと構わなかった。
その時コウシロウは今のゾロと同じ年頃で、まだまだ政治の裏も知らずに希望と熱意に溢れている時期だ。
それが最悪な形で最も醜い部分を見せつけられたのだ。絶望、なんて表現など生温いほどの衝撃に打ちのめされたものだった。
そしてその衝撃は己の不甲斐なさを責めると同時に、新国王に対する怒りを膨れ上がらせるには充分な威力を持っていた。
腐った人間が一番悪いに決まっている。
それを糾弾出来ない自分にも苛立つ。
しかし、そもそも国王が無責任に国を放り出さなければ、何の問題もなかったのだ。
噛みしめた唇は、微かに血の味がした。
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意外に若い頃のコウシロウさんも青かった、と言う話←
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